風の海岸通を聴いて

 今回は風のファーストアルバム「風ファーストアルバム」に収録され、その後イルカがカバーしたことでも有名な「海岸通」の歌詞について見ていきたい。 

 

あなたが船を選んだのは

私への思いやりだったのでしょうか

別れのテープは切れるものだとなぜ

気づかなかったのでしょうか

港に沈む夕陽がとてもきれいですね

あなたをのせた船が小さくなってゆく

 

夜明けの海が悲しいことを

あなたから教えられた海岸通

あなたの言うとうり妹のままで

いたほうがよかったかもしれない

あなたがいつかこの街離れてしまうことを

やさしい腕の中で聞きたくはなかった

 

まるで昨日と同じ海に波を残して

あなたをのせた船が小さくなってゆく

 

 どこか遠くの場所へ旅立つとき、電車や新幹線での別れは乗った瞬間に出発し、一瞬で見えなくなってしまいますよね。つまり「なごり雪」のような別れということですね。しかし、ここで登場する男性は恋人と別れ、旅立つときの乗り物に船を選択しています。船は乗ってもすぐに出発するわけではなく、出発までに時間があります。そして多くの人が見送りに来ています。一人を送るのではなく、多くに人を送るように船は港を離れていきます。そして、船はすぐに見えなくなるのではなく、だんだん小さくなっていき、そして見えなくなります。この当時ですから、今みたいに携帯電話やインターネットがあるわけではないですから、遠くに行ってしまえば会うことがなかなかできません。その人が船の甲板に出ていたら、最後の瞬間そのギリギリまで姿を見ていることができます。より長い時間会っている。それが彼の女性に対する「やさしさ」だったのです。

 船が出るとき港でテープが切られるように、二人をつないでいたテープも切れ、彼が遠くに離れて行ってしまったのですね。

 「港に沈む夕陽がとてもきれいですね」。きっと夕陽に照らされながら船が港から出発していったのでしょう。

 彼が去ってから一夜が明け、港には朝日が昇り始めます。そして彼女は改めて一人になったことを実感します。伊勢正三さんの故郷の大分県津久見市にも海岸通があるそうですから、モデルはきっとそこでしょう。これまでは二人で歩いていた海岸通りを女性は今一人で歩いているんでしょう

 そして彼女は男性に告白した時に「これまで通りでいて欲しい」と言われたことを思い出しています。妹のままでということは、二人は近所に住むお兄ちゃんと妹のような仲のいい二人だったのかもしれません。そして腕の中ということですから、きっとこの海岸通で彼女は男性に抱きしめられたのでしょう。胸ではなく、腕と表現していることから、しっかりと抱き合っておらず、2人の間に距離ができているように感じます。そして女性は男性に抱かれながら、この街から引っ越すことを伝えられたのでしょう。

 舞台は男性のの出発の日に戻ります。海。つまりこの街の景色。そして船が港から出ていくこと。これは普段と何も変わらないこの街の日常。しかし、普段と違うことが一つだけ。それは男性がこの街からいなくなったこと。それによって女性が一人になってしまったこと。小さくなってゆく。この表現から、彼との物理的な距離と心の距離の2つが遠くなってしまったことを表しているのかもしれませんね。